Research
研究紹介
  • 癌とmicroRNA
  • デジタルパソロジー
  • 核酸医療
    の基礎研究
  • エクソソーム
  • ゲノム医療
癌とmicroRNA
癌は、日本人の死因の第一位を占めており、幸福に天寿を全うできる社会の実現のためには、癌の克服は重要な研究テーマと考えられます。
近年疾患の原因分子に直接的に作用する分子標的医薬が注目されています。

癌治療においても、抗体医薬や酵素活性を阻害する低分子化合物が臨床に用いられ大きな成果が上がっています。
一方、癌の増殖には、Rasなど細胞内伝達物質や、c-Mycなどの転写因子が極めて重要な役割を果たしますが、
これらの分子に対しては、既存の抗体医薬、低分子化合物、siRNAでは完全に作用を阻害できないため、 新たな治療のイノベーションが必要と考えます。

microRNA(miRNA)はタンパク質をコードしない20塩基長前後の小RNAで、標的となるRNAの発現を抑制し、生体の様々な生理活性を制御します。
特に癌との関連が深い事が明らかになり、従来の手法では標的にできない癌遺伝子に対してmiRNAを用いた治療法の開発が期待されています。

このような背景から、我々はこれまでに、
(1)RNase活性のある血清中に安定的にmiRNAが存在すること
(2)種々の癌患者血清中にmiR-92aの発現が低下すること
(3)血清中のmiRNAはエクソソームに存在しRNaseに抵抗性であること
(4)細胞で作成した人工エクソソームは他の細胞にも取り込まれ、それを取り込んだ細胞の形質を変化させうる事を明らかにしてきました。

このような背景から我々は現在、細胞を用いた効率的な人工エクソソームの作成を試みています。
エクソソームは、細胞内小顆粒で、生理的に体内を循環していることから、ホルモンのような働きをしている事が想定されています。
また、miRNAは従来のsiRNAと違い内在性のRNAであることから、極めて安全性が高いと考えられます。

さらに、癌は、発生部位や組織系が同じでも、ゲノムに変異があるため、いわゆる個別化医療が重要です。

したがって、治療前に遺伝子やmiRNAのプロファイリングを行ない、最適なmiRNAの選択をし、エクソソーム化して患者に投与することで、
高度な個別化医療の実践が期待出来ることから、本治療法の推進は新たな癌治療の創薬として大きな社会的な意義と、
科学技術の発展に寄与するものと考えています。
脂肪肉腫におけるt(12;16)染色体転座
3D-FISHにおけるt(12;16)染色体転座
粘液型脂肪肉腫の組織像
デジタルパソロジー
近年、デジタル病理学という分野が注目されています。
我々も2002年からこの領域に興味を持ち、NECとデジタル・パソロジーシステム開発の共同研究を実施してきました。
他にも米国のベンチャー会社、MGH (Massachusetts General Hospital) やドイツDKFZ(Deutsches Krebsforschungszentrum) などと共同研究を行い 自動補助診断システムのe-Pathologist®というシステムの開発に成功しました。

このシステムは、胃・大腸の内視鏡生検に特化したもので、現在いくつかの臨床検査会社において使用されています。
また、ここ数年は、標本スライドをデジタル画像化する手法、画像解析処理技術、および人工知能の飛躍的な発展により、 病理形態情報を定量化するデジタル・パソロジー分野はさらに発展する事が期待されています。
このような状況の中で、2016年からは、NECから産学連携講座「(現)人工知能応用医療講座 (旧)先端がん免疫病理画像研究講座」が 設置されました。

我々も、分子生物学、病理形態学を繋ぐツールとして、この分野における研究を推進したいと考えています。
細胞核の核内テクスチャ
核酸医薬の基礎研究
医学の急速な進歩によって、完全ではありませんが、疾患の原因が分子単位の 異常で理解されることが可能になりました。
この結果、疾患の分子を標的とした治療法が可能になってきました。

一方、分子標的医薬は、低分子化合物、抗体医薬が代表的ですが、 次世代の治療薬として核酸医薬が注目を集めています。
これまで、私達は疾患の原因となる分子を同定してきましたが、 今後その原因分子を標的にした治療を siRNAによって行うことを考えています。

特に私達が単離した、子宮頚管の原因分子であるhWAPLや子宮内膜症の発症に関与するHRFは 重要な標的分子と考えています。
マウスRAモデルにおける
Osteopontin siRNAの治療効果
皮膚に対するsiRNAの新規DDS
エクソソーム
 エクソソームは細胞から分泌される直径50-150 nmの物質です。
その表面は細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部には、マイクロRNAやタンパク質など細胞内の物質を含んでいます。
これまで、我々の研究チームは、世界に先駆けて、エクソソームを遺伝子工学を用いて改変し、 核酸医薬品のドラックデリバリーシステムの開発に成功しています。現在さらに、植物由来のエクソソームを用いて、 経口投与可能な核酸医薬品の開発を目指しています。
ゲノム医療
ゲノム医療は、新しい医療として注目を集めています。
特にがん治療においては、個別化医療の実践として大変重要です。
ご存知のように、人はそれぞれ遺伝子の個性を有しており、当然がん組織もそれぞれ原因となる遺伝子変異が異なる。
ゲノム医療は、その個性を調べる事により、一人一人の体質や病状に合わせることより、より効果的な治療を行う事ができます。
このような治療は、近年の次世代シーケンシング技術によってもたらされました。このような中で、本学は癌拠点病院の連携病院として、先端のがん治療を行っています。
分子病理学分野も、がんゲノム医療の中心的な役割を果たす、エキスパートパネルに全て参加をし、患者さんの遺伝子異常から、変異を明らかにするキュレーションという作業を行っています。

一方、本適応されているがんパネル検査は、現時点では検討する遺伝子は、300個程度の遺伝子になります。
そこで、我々はすべての2万遺伝子を検査する事で、さらなる精度をたかめる遺伝子検査を開発しています。
この検査は、TMU Decisionと呼ばれる、東京医科大学で検査をする事ができます。